歌手のASKAさんが覚せい剤所持・使用の罪により逮捕されたことを覚えていられる方も多いでしょう。
この事件では、なんとASKAさんが自らに警察に通報したことが逮捕のきっかけとなりました。
しかし、その通報内容は非常に変わったものでした。
ASKAさんは自らが何者かに盗聴・監視されていると訴えており、その被害をしきりに警察に訴えていたのです。
監視や盗聴妄想というのは、覚せい剤による影響もありますが、実は世の中には覚醒剤などの影響がなくとも、自らが正体不明の何者かによって監視、盗聴されていると訴える人達がいるのです。
そこで、今回は過去に私が実際に会ったことのある、監視盗聴妄想の被害者達を通して、この妄想被害の実態について少しご紹介させて頂きます。
監視盗聴妄想の原因は統合失調症?
監視盗聴妄想の原因は統合失調症と言われています。
そして、探偵たちが現場で出会うような被害妄想を抱いている人達の大半は、統合失調症による妄想に悩まされており、
日常的な通院を余儀なくされているか、もしくは家族からの保護を受けながら生活しています。
統合失調症とは?
統合失調症とは、体の中にある精神の統合ネットワークが故障してしまう病気です。
人間は様々な思考を頭の中で繰り返しています。
思考は外界からの影響と、記憶、精神状態や肉体的な影響によってつくられるものです。
こうした複雑な状態を安定的に保ち続けているのが精神ネットワークと言われるものですが、このネットワークについては完全なブラックボックスとなり、まだまだ人知が完璧に及ぶ領域ではありません。
そして、統合失調症とは本来上手く統合されていた精神ネットワークが崩壊してる状態を指す病です。
もちろん、その仕組みすら判明していないシステムの故障ですから、統合失調症を完璧に治療する手立ては未だ発見されていません。
また、統合失調症は薬物の長期的な使用によっても発生すると言われています。
その症状は、薬物を辞めたあとでも継続してしまい、薬物治療の大きな妨げとなっています。
盗聴をされていると探偵に依頼する人々
探偵事務所には、よく「盗聴をされているので探して欲しい」という依頼により調査を行うことがあります。
また、何者かに監視されているから、その犯人を見つけて欲しいという訴えも、同じような人たちから依頼をしてきます。
盗聴や監視被害というのは現実では確かに実在します。
盗聴発見調査のすえ、本物の盗聴器を発見することもあれば、街中を車で運転していると、盗聴電波を受信することもしばしばです。
ところが、盗聴器や監視カメラなどに気が付く人はまず居ません。
また、個人宅に盗聴器や監視カメラが設置されるようなケースは極端に低いです。
被害を訴える人の大半は被害妄想を抱えている
このような事情により、探偵が盗聴器発見調査を行う人の多くは、被害妄想を抱えている人達となります。
つまり、実際には室内には盗聴器もなく、監視カメラもない。
周辺に監視者がいることもなく、誰かに狙われているという事実はないのです。
しかし、だから調査が無駄とも言い切れません。
被害妄想に悩まされている人達は完璧に治療されることはありませんが、探偵の調査によって被害の実態はないと知ると、一時的にでも安心感を覚えます。
また、探偵にやってくる監視妄想を抱く人たちの中には、家族が依頼者となっていたり、医師に勧められて探偵に相談されたという人も珍しくないのです。
監視被害妄想は治ることのない病
監視や被害妄想は、統合失調症の陽性障害によって引き起こされます。
陽性障害とは、恐怖によって妄想を抱きはじめ、普通では誰も信じないことも信じてしまう恐ろしい障害です。
(妄想障害)
妄想は、非現実的なことやあり得ないことなどを信じ込むことです。
自分の悪口を言っている、見張られている、だまされているといった被害妄想が代表的です。
周囲の人の言動がすべて自分に向けられたものだと確信する関係妄想、有名スターの子どもであるなどと思い込む誇大妄想などがみられることもあります。
(自我意識の生涯)
自分と外の世界との境界がはっきりしなくなって周囲の影響を受けやすくなり、自分の行動や考えを誰かに支配されているように感じるようになります。
自分の考えが他人に知られてしまうと感じる思考伝播、人に考えや衝動を吹き込まれていると感じる思考吹込、
考えを他人に吸い取られてしまうと感じる思考奪取などの「させられ思考」や、実際に誰かに操られていると感じる「させられ体験」があります。
(引用元:統合失調症ナビ)
こうした症状が一旦起きると、妄想は次第に現実に近く、なおかつ分かりやすい形をとりはじめ、
警察や国、もしくは隣人などが監視をしている、もしくは室内に盗聴器を設置しているという妄想になるのです。
統合失調症は回復が難しい
一度統合失調症になってしまった人間は、その後の回復は難しいです。
まじめな中高年ほど多い
統合失調症によって盗聴や妄想などの症状が出てきて、探偵に盗聴監視調査を依頼される人の大半は中高年の男女です。
彼らは長期間に渡って日常生活における強いストレスを感じ続けてきてしまったため、中高年になるころに本格的に精神統合システムが故障しだし、強い妄想や自我の障害が現れはじめると言われています。
統合機能が若い頃に壊れた場合には、その後も回復の見込みがあるかもしれません。
しかし、覚せい剤にせよ、日常のストレスにせよ、長期間の酷使によって精神統合システムが壊れたとしたら、そのあとの回復はとても難しいでしょう。
盗聴監視妄想を抱く人は何度も依頼してくる
盗聴監視妄想を抱いた人は、一度は探偵の調査によって安心感を覚えても、しばらくすると、また同じように相談にやってきます。
以前の調査の報告書の話を聞いてもまるで納得せず「盗聴器はやはりある」「また誰かに監視されているような気がする」と本当に深刻そうに相談されます。
しかも、彼らはまるで嘘をついていたり、興奮して話している様子などありません。
本当に妄想を本物と信じている人達は、大げさなリアクションも何もなく、淡々と被害について語ります。
口調は落ち着いていることが多く、中には「今度こそ監視しているやつを見つけてやる!」と、強がって笑うような人すらいるほどです。
盗聴妄想被害は無くなるのか
覚せい剤によって、長年のストレスによって、真面目で繊細な人間ほど統合失調症になってしまうのはつらいものです。
探偵としてこうした人々を多く直に見てきた身としては、彼らにもいずれ安息の日が訪れることを願っています。
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