桶川ストーカー殺人事件の悲劇から生まれたストーカー規制法が、2016年12月6日に新たに変化しました。
ストーカー規制法の歴石を見ても、法改正のターニングポイントは常に日本を騒がす悲惨な事件です。
今回は2016年5月に東京都小金井市で発生した女子大生ストーカー傷害事件が原因で法改正に踏み切りました。
同事件ではSNSを中心としたストーキング行為から一気に襲撃にまで発展したことから、ツイッターやブログなどネットコミュニケーションにおける嫌がらせ行為も規制法にもりこまれ、衆議院本会議において成立しました。
この記事の内容
SNSを中心としたネットコミュニケーションにも適応
2016念12月の法改正では、小金井市のストーカー事件で起きたサイバーストーキング(ネット上でのストーキング行為)の再発を防ぐことが最も重要なポイントとなります。
改正案では、SNSによるメッセージにおいて、同一アカウントに対して執拗なメッセージの送信、悪意あるメッセージを複数回にわたって送るといったネット上の書き込みもストーカー規制法の範疇に含まれることになりました。
また、ネットコミュニケーションはSNSのみ限らないことから、ブログでの執拗なコメントもストーカー規制法の対象となるようになりました。
複数回にわたる執拗なメッセージの送信
サイバーストーキングに関する規制は日本では初となります。
ここで重要となるのは、どの程度までのコメントやメッセージがストーカー規制法の対象として認められるかでしょう。
重要となるのは、メッセージの内容よりも、同一人物に対して複数回にわたってメッセージを送り付ける点でしょう。
被害者からの相談を受け、ストーカー被害かどうか判断するのは警察の仕事ですが、一度限りのメッセージでストーカーと判断することは警察も難しいでしょう。
一方、一度きりでも恐ろしいメッセージを送られたことで、ストーカー規制法が適応される可能性は十分に考えられます。
ただ、その場合には殺害予告などの恐ろしい脅迫メッセージが中心となるので、ストーカー規制法とはまったく別の法律の適応が検討されるかもしれません。
被害届を出すためにはメッセージの保存が必須
SNSのメッセージやブログのコメントを証拠としてストーカー規制法を適応させるなら、送られてきた文章は必ず保存しなくてはなりません。
SNSなどの場合、通常のリプライ機能などを使ったメッセージは、投稿者側の操作で削除することが可能です。
つまり、いやがらせ行為の証拠をストーカー自身が簡単に削除することが可能なのです。
ストーカーは感情的で衝動的な犯罪者という認識が一般的ですが、中には自らの行為が犯罪とわかりながら、冷静にストーキングを行う危険な人物もいます。
彼らは決して馬鹿ではありません。
ストーカー規制法の改正が発表された今、ストーキングを行いながら証拠を消すという方法を取る加害者は必ずあらわれるでしょう。
罰則強化
今回のストーカー規制法改正では、今まで被害者達が煮え湯を飲まされ続けてきた『親告罪』が廃止され、事実上の非親告罪となりました。
親告罪とは、告訴(訴えを起こす)がなければ刑事手続きができない罪です。
法改正前まで、ストーカー被害者は被害を相談するだけでなく被害届を出し、相手を告訴しなければ刑事事件として扱われませんでした。
しかし、法律が改正され非親告罪化したことにより、被害の実態が明らかでない場合でも、警察が捜査に乗り出し、相手を起訴することが可能となったのです。
事件の急激な悪化に備える
非親告罪化された背景には、被害者者が届け出をためらい、事件がエスカレートするストーカー事件の現実が隠されています。
ストーカー被害者はストーカー犯を恐れるがあまり、被害者を告訴することが出来ない人も多いです。
また、告訴という手続きが必要な罪であるため、加害者であるストーカーも「被害者が自分を訴えたせいで逮捕された」と逆恨みし、より激しいストーキングに出ることも少なくありませんでした。
しかし、今回の法改正により、事実上の非深刻化が実現したことで、被害の相談があった時点で警察が捜査を行い、被害事実が認められた時点で警察が逮捕することになります。
これにより、被害者が届け出を躊躇う心配が減り、ストーカーも逆恨みをする余地が減ります。
各種禁止命令等の手続に関する見直し
ストーカー被害が認められた場合、相談を受けた警察署長の判断により加害者に対して警告、その後もストーカー被害が止まらない場合には、被害者への接近禁止命令が下されます。
しかし、以前までは接近禁止命令が出るまでの手続きが多く、緊急的な対処が求めらえるストーカー事件では、接近禁止命令を通常通りの手続きで出していては間に合いませんでした。
そこで、今回の法改正では禁止令の手続きに対しても見直しが入りました。
具体的には、ストーカー被害が激しく、すぐにでも接近禁止令が必要な場合に限り、警察所長の判断を仰ぐことなく禁止令を出すことが可能となったのです。
接近禁止令に関する問題
接近禁止令を早い段階で出すことにより、加害者に対してプレッシャーを掛ける速度がありました。
相手が本格的な行動に出るまえに抑止することで、加害者自身も心理的抑制が働きやすくなることが期待されません。
ただし、接近禁止令が出されても、被害者に近づこうとするストーカーもいることを忘れてはいけません。
エスカレートしたストーカーは禁止令も無視して近づきますし、警察も、加害者の現在地を逐一把握してはいません。
被害者に気が付かれることなく一気に接近し、その場で犯行が行われれば、接近禁止令などまるで意味はないのです。
厳罰の強化
ストーカー犯罪が一向に収まらない理由として、軽すぎる厳罰も見過ごせない点です。
ストーカー犯罪は以前まで「6ヵ月以下の懲役、50万円以下の罰金』となっていました。
この罪は他の犯罪に比べても軽く、懲役期間も短すぎるため、ストーカー加害者に反抗を思いとどまらせることも、被害者に安心感を与えるにも不十分でした。
法改正後は、ストーカー加害者に対して『1年以下の懲役、100万円以下の罰金』へと厳罰が引き上げられました。
期待されるストーカー抑止力
厳罰の強化の目的は、ストーカー加害者増加の抑止です。
ストーカー規制法が誕生した平成12年依頼、ストーカーの件数は年々上昇し続けています。
その数はすさまじい勢いでましており、平成12年には2,280件だったものが、平成27年21,968件と10倍近くにまで膨れ上がっています。
相談件数の上昇の理由は、ストーカー被害の認知度が高くなったことが最も大きな原因と言われます。
警察は相談件数の上昇を受け、新たなストーカー対策部署を設置、予算も投入し人員も増やしています。
ですが、相談部署を作り人員を投入したところで、ストーカー犯罪そのものが減る訳ではありません。
犯罪そのものを減らすには、まずは加害者に対するプレッシャーを強めるのが得策と判断したのでしょうが、その背景には、警察の人員不足も問題視されているようです。
改正法案の問題点
ストーカー規制法の誕生により、今度は新たな問題点も浮彫になっています。
私としては、規制の強化には賛成する立場なのですが、日本人の全てが賛成というわけではありません。
法律の改変は、メリットとデメリットの双方を生み出すものです。
ストーカー加害者の増加の恐れとは?
今回の法改正ではストカー行為として認められる範囲が大幅に広がりました。
サイバー・ストーカーに対応するため、SNSやブログなどで執拗なメッセージや書き込みを行う行為も禁止されました。
また、非申告罪となったことにより、より積極的に警察が動けるようになったのです。
ところが、ネット上を中心に、こうした規制が行き過ぎたものだという批判の声も上がっているのです。
どこからストーキングなのか分からなくなる
SNSを使用するユーザーの中には「どこからストーカー行為なのかわからなく」という声もあがっています。
特に、有名人などのファンに対して良くコメントを送るユーザーからは「ファンに何度もコメントをし続けている自分もストーカーで捕まる?」といった発言が目立ちます。
対価に、著名人はファンから多くのコメントをもらいます。
特にSNSは、芸能人のような職業有名人ではなく、一般の人がSNS内部で有名になり、多くのフォロワーを獲得することが大量にある場所です。
著名人ではれば、何度もコメントをもらうのは良いことでしょう。
ただ、SNS内部だけの有名人となると、同じ人間から何度もリプライやリツイートをもらうと、気分が悪くなることがあるかもしれません。
こんな時、もし警察に相談して、ストーカーとして捜査され、逮捕されるような事があれば、ストーカー冤罪も生まれかねません。
ただ、いくら非申告化したといっても、被害相談がなければ警察は動きませんし、相談内容を見て事件化することに代わりはありません。
何度もメッセージを送ったといっても、応援コメントや、何気の無い悪戯のようなコメントであれば、第三者である警察の目から見て「ストーカーではない」と判断されるはずです。
ただ、あまりにも行き過ぎた好意に基づくつきまとい行為の場合、ストーカー規制法が適応される可能性は高くなります。
判断は警察のガイドラインに任せるしかないでしょう。
ネットコミュニケーションが怖くなる?
自分がストーカーとして扱われるのが怖くなり、ネットでのコミュニケーションが難しくなるという声も聞きます。
特に、あまりしたくない間柄でありながら、コメントを送り続けたり、リツイートや返信などをしている人間にとっては、かなり怖いことかもしれません。
インターネット上での一方的なコミュニケーションは良くあることです。
SNSではフォロー数が1であるのに対して、フォロアー数が10000を超えるアカウントというのは沢山あります。
そんなユーザーは、常にフォロー外からのコメントは多数やってくるのですから、本来、本人が求めているコメントばかり送られて、ストーカーとして警察に相談する可能性もあります。
しかし、やはりここでもストーカーであるか警察が判断します。
いくら複数回のコメントやメッセージが続いたとしても、無視できるレベルのもので、犯罪として扱うほどでもないと警察が判断すれば、ストーカー規制法の出番ではありません。
ここでも、冤罪が作られるようなことは少ないと思って良いです。
警察は何を基準にサイバー・ストーカーを定義するのか
非申告化したストーカー規制法では、警察の判断が全ての基準となります。
警察が定義するサイバーストーカーとは、ストカー規制法にのっとり、なおかつ危害を加えられる可能性が高いと判断したものです。
ストーカー規制法によれば、ストーカー行為(つきまとい)の定義について次のように記しています。
つまり、明らかな恋愛感情や好意があると判断されない限り、つきまとい行為とは認められません。
また、この判断は公的権力(警察)の客観的判断にまかされるので、普通にファンとしてコメントを何度も送る程度なら、まずストーカーとは扱われないでしょう。
ストーカー対策の今後
コメント