浮気調査の対象者で、もっとも苦労する相手は誰か?
そう言われると、いままで出会った難敵の対象者たちの顔が一気に脳裏に広がってしまうため、とても選びきることはできません。
しかし、その中でもとにかく体力的にきつかった調査といわれると、最初に思い出すのは「調査中、延々とマラソンをしていた」という件です。
実は探偵というのは、対象者の行動、もしくは行先に合わせて、その場に長時間いても浮かないような恰好をしなくてはなりません。
ただ、毎回読書をしながら張り込みが出来れば良いんですが、そうではない現場の方が多いのが本当の所。中には現場が終わったあと、意識が失いそうになった現場もあったのです。
相談内容
今回の案件の依頼者は東京都内にお住まいのEさん(40代・女性・会社員)
Eさんは現在都内のあるデザイン会社に勤めていますが、その前は都内のあるNPO法人の職員として国際的な援助活動に従事されていました。
そんなEさんは、同じくNPO法人で活動していた現在の旦那さんと知り合うことなり結婚。現在はNPO法人をやめ、子育ての傍ら知り合いが経営する小さなデザイン事務所で服飾関係のデザインを行いながら幸せな生活を送っていました。
そんなEさん夫婦の共通の趣味はジョギング。
もともと陸上選手だったら旦那さんの影響もあり、結婚してからもしばらく二人は一緒にジョギングを楽しむ仲にありました。
しかし、子育て期間に入ってからというもの、Eさんはい一度ジョギングをやめてしまい、現在は旦那さんだけがジョギングを行っていたのですが、そのジョギング仲間との浮気が最近になって発覚したのだといいます。
依頼内容
Eさんが旦那さんの浮気を疑った最大の原因は、旦那さんが夜間ランニングを始めたことでした。
それまでというもの、旦那さんは早朝のランニングか休日のランニングしか行ってこなかったのですが、なぜか最近になって夜間ランニングを始めたのです。
一体なぜ夜間にランニングを始めたのが疑問に思ったEさんですが、夜間ランニングを行う人はとても多いこともあり、当初は別段不思議には思わなかったようです。
夜間ランニングから旦那さんがかえってきたとき、何時ものようにランニング後のシャワーを浴びる直前、かすかに女性のにおいを感じ取ったのだといいます。
そんな馬鹿な!と思いますよね。普通、汗のにおいに混じって女性の匂いなんて解るものではありません。
しかし、長年探偵をやっている私からすれば、女性の嗅覚というのはまるで警察犬の様に敏感で、こと浮気問題においては、おそらく警察犬以上の性能を発揮します。
それからというもの、旦那さんの動向を見守っていると、旦那さんは次第にランニングから家に戻る時間が遅くなっていったといいます。
これはますます怪しいと思ったEさんは、旦那さんについに質問をぶつけました。
「本当にランニング?」
すると旦那さんは一瞬言葉につまったあと、すぐに「そうだよ」と言ったのですが、その様子をみてEさんはますます旦那さんの浮気を確信したのです。
しかし、自分で調査を行くわけにもいかないので、その調査の依頼を探偵社に依頼することとなったのです。
調査開始
今回の調査は依頼者との協議の結果、勤務後、自宅に戻ったのち、ジョギングに出かけてから数時間の間、旦那さんがどこで何をしているのかを調べることにありました。
ただし、今回の対象者は徒歩でも車でもなく、走って移動する対象者です。
さらに問題なのが、もしも本当にジョギングをしていた場合、対象者が走るのは河川敷周辺のランニングコースか、遠出して皇居周辺、もしくは公園内のコースなど、とても車で尾行するのが難しいポジションばかりだったのです。
そこで、この調査でのメインは自転車を使用し、補助として大型バンを一台投入することになりました。
しかし、問題は「一体だれが対象者の後ろを走るのか」です。
そこで白羽の矢が立ったのが、当時事務所で一番若かった私。
当然といえば当然の流れだったのですが、上司は「いざとなったら、一緒にジョギングしてもらうからな」と言われドキリ。まさか、本当に走ることになるのか?と、不安でしょうがありませんでした。
そして調査当日。
対象者宅を張り込んでいると、すぐにランニングウェア姿の対象者が現れ、軽いフットワークで走りはじめます。
その後方から私も自転車でスタート。最初はかなりペースが遅かったのですが、公園内に入ったとたん、急にペースをあげはじめる対象者。私も必死に自転車をこぎますが、それでもドンドンと離されていきます。
すると、対象者のペースが急にダウンし、私のもとに近づいてきます。
どうしたのだろうと思いこちらもペースダウン。すると、隣に並走して走る一人の女性が目に入りました。
これはと思い、ビデオカメラでその様子を撮影。
と、その瞬間、急にバランスを崩し、その場で転倒。慌てて立ち上がり自転車をチェックすると、自転車のチェーンが切れてしまっているではありませんか!
これはまずい。このままじゃ、尾行が続けられない……
そう思った直後、私はそのまま走り出しました。
もちろん、普段からジョギングなんてしていません。
しかし、なんとか対象者たちの様子をカメラに残すため、走って距離を縮めながらビデオを回し続けて公園を一周。そのあいだに携帯電話で現場の上司に報告したところ「今公園の出入り口を抑えているから、それまで走り続けろ!」とのお達しが……冗談かと思いましたが、それでもやるしかありません。私は全員が配置につくまで、そのあと3週も公園の中を走り続けたのです。
調査結果
この調査の結果、一緒にランニングをしていた女性と旦那さんが親密な関係であることは判明しましたが、ラブホテルに行く、もしくは浮気相手の家に向かうといった不貞行為を確認することは出来ませんでした。
しかし、その後追加調査の依頼はなく、そのまま調査が終了。
私としても、もう二度と走りながらの撮影はしたくないと思っていたので、依頼者の方には悪いですが、本当に有難いと思っていました(笑)
この様に、浮気調査といっても本当に体力勝負の調査もありますが、どんな状況でも調査を完遂させるのがプロの仕事。探偵もいろいろと体を張っているのです。
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